ともすれば、世界の真ん中で

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原田マハ『いちまいの絵 生きているうちに見るべき名画』

こんにちは。ブログをはじめました。中嶋くわりと申します。美術館に行ったり、本を読んだりして思ったことを、忘れないうちに書いていこうと思います。拙い文章になるかと思いますが、どうか、よろしくお願いします。

 

原田マハ『いちまいの絵 生きているうちに見るべき名画』(集英社新書、2017)

 

いちまいの絵 生きているうちに見るべき名画 (集英社新書)

いちまいの絵 生きているうちに見るべき名画 (集英社新書)

 

 

過去、こんなにも私が自分で、自分自身の言葉で何かを表現したいと感じたことは、この本を読み終えるまでありませんでした。「いちまいの絵」と題された、原田マハ先生の新著。小説ではなく、美術評論、あるいはエッセイともとれるような作品です。ブログの最初のタイトルは、これで書くと決めていました。

 

 ⚪︎Review

本著では、これまで数多くの美術小説を執筆してきた著者が、「いちまい」ずつ丁寧に、計26の絵画について、自身の体験を交えながら解説しています。驚くべきはその表現力の豊かさです。著者の解説は、絵画と、アーティストをグッと身近に、魅力的に感じさせます。

たとえば、6枚目、画家セザンヌの肖像画『セザンヌ夫人』についての紹介。ニューヨークの展覧会で、偶然にも、過去にロンドンで出会ったこの絵が出品されていると知った著者は、その感動について、

「ひさしぶりの同窓会に出かけていって、ずっと片思いをしていた憧れの人が来ていると知ったーーそんな感じだった。(p79)」

と、作品への並々ならぬ親しみを持って語っています。著者は日ごろから、自身とアートの関わりについて、「アートは友達、だから美術館は友達の家である。」と表現します。そのため、本著の語り口は徹頭徹尾、著者自身のアートへの愛情に溢れています。私たちが感じるのは、過去のアーティストたちが時間を超えて、また作品がガラスケースを超えて、自分の元にやってきたかのような感覚です。アートの存在を手の届かない遠くのものから、鑑賞者自身に寄り添うようなものへと変えてくれる。そういった不思議な力が、著者原田マハの文章にはあると思います。

本著は、詳細な美術史の文献ではありません。しかし、初めてアートに触れる人はもちろん、既にアートに詳しい人にも、ぜひ手に取ってほしい一冊です。私自身、大学で美術史を学んでいます。ともすれば、アートを追うことが義務的になってしまう環境の中で、本著は、アートが本来持つべき役割、人生における意味を、再発見させてくれます。著者自身、アートの現場に携わっていた頃と比べ、作家となった現在では「はっきりと、またより豊かに、絵の中からさまざまな声が聞こえてくるようだ」と語っています。

現在、さまざまな場所で、さまざまなアートを体験する私たちが、どれだけの親しみを持って、彼らと接することができるか。多くのアート小説を書いできた著者だからこそ語れる、唯一無二の美術書であると、感じました。