ともすれば、世界の真ん中で

絵をみたり。本をよんだり。

『ブリューゲル「バベルの塔」展』東京都美術館

日本に「バベルの塔」がやって来ました。実に24年ぶり、奇跡の来日だそうです。画家ブリューゲルが様々な物語を込め、同テーマでは過去に類を見ないほど、壮大に描いた、まごう事なき傑作。展示には大部屋ひとつが用意され、作品を精巧に捉えたグラフィックスが制作されるなど、まさに展覧会の目玉として、世間の耳目を集めています。

 

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私も遅ればせながら、見に行ってきました。なるほど、「バベル」の素晴らしいこと。予想よりも一回り小さな画面に、こちらは予想を上回る、恐ろしいほどの精密さで、神話の情景が描き出されています。グラフィックス再現にあったように、今にも塔のあちこちが、ヌルッと動き出しそうな気配さえ感じます。展覧会の一番奥に、威風堂々と鎮座する「バベル」。しかし、本展の見どころはそれだけではありません。

こちらも同じく、2点の作品が初出展となった、画家、ヒエロニムス・ボス。ブリューゲルを含む多くの後世の画家たちに影響を与え、ボス・リバイバルと呼ばれる、奇想画の潮流を生み出しました。本展の主な構成は、前半にこのボスの作品。そして後半にブリューゲルと、2人の作品を、時代に沿って展示するものです。

ボスの絵画の好さは、何と言っても、その荒涼とした感じにあります。奇想画家としての、キャラクターの創造力もさることながら、画面全体を覆う、虚しさ、寂寞感、もう後戻りのできないような、世紀末的な雰囲気は、他ならぬボスにしか表現できないものではないでしょうか。油彩画『放浪者』に描かれた、男の表情、ボロボロの衣服、今にも崩れそうなあばら屋。画家の内面の現れか、どこか真に迫る冷たさを感じずにはいられません。

 

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ボス、ブリューゲルともに、素晴らしい奇想画を手がけました。しかし、ブリューゲルがイマジネーションの人として、斬新な空想のキャラクターを次々と生み出したのに対し、ボスの描く対象には、どこか画家自身の内面ーー独自の宗教観に基づく、痛烈な社会への風刺の思いーーが投影されているような印象をうけます。

世代を隔てて、奇々怪界なモンスターたちを描いた2人の画家。そのチャーミングな見た目の中に、画家自身の思いの発露を、探して見るのも面白いのではないでしょうか。